歯科でマウスピースをつくってもらい、毎晩きちんと装着している。それでも朝の顎の重さやこめかみの張りは変わらない。装置が合っていないのだろうか、自分の使い方が悪いのだろうか。そう考えている方に、お伝えしたいことがあります。
結論から書きます。マウスピースは、それが担当している仕事をきちんと果たしています。朝のだるさが残るのは、だるさをつくっている場所が、装置の担当範囲の外にあるからです。尼崎市武庫之荘の整体院ファシリテイトによる、食いしばり連載の4回目です。
この記事の要点
・マウスピースの主な役割は、歯と歯が直接当たるのを防ぐこと。歯を守る装置として大切な仕事をしている
・一方、噛む力の強さは脳幹で決まっている。研究でも、装置による筋活動の低下は装着直後だけで、数週間で元に戻ると報告されている
・歯は髪の毛1本より薄い厚みの違いを感じ分ける。噛む力の設定を動かすのは、強い刺激ではなく感覚の入力
マウスピースが守るもの
マウスピースは何のための装置か
歯科でつくられるマウスピースは、ナイトガードとも呼ばれ、上下の歯のあいだに入る装置です。役割を整理すると、主に2つあります。
ひとつは、歯を守ること。噛みしめや歯ぎしりが続くと、歯のかみ合わせ面がすり減り、詰め物が欠け、歯にひびが入ることがあります。装置が緩衝材として間に入ることで、歯と歯が直接ぶつかるのを防ぎます。歯ぎしりに使われる装置をまとめた系統的レビューでも、その主な目的は「睡眠中の歯と歯の接触を遮り、歯ぎしりによる害を小さくすること」と整理されています(Ainoosah ら, BMC Oral Health, 2024)。
もうひとつは、力を分散させること。一点に集中していた力が装置全体に散ることで、特定の歯や顎関節にかかる負担が偏りにくくなります。
外してしまうと何が起きるか
どちらも大切な仕事です。長く噛みしめが続いている方にとって、歯が削れていくことを防げる意味は小さくありません。マウスピースは不要なものではなく、役割の違う道具です。
ここを誤解したまま外してしまうと、歯の摩耗だけが進むことになります。当院にご相談いただく方にも、装置を外していただくようお願いすることはありません。歯科でつくられた装置は、歯科の判断のもとで使い続けてください。
守ることと力を下げること
噛む力はどこで決まっているのか
ここが今回の核心です。
第1回でお伝えしたとおり、噛む力の大きさを決めているのは歯でも顎関節でもありません。脳幹にある三叉神経運動核という神経細胞の集まりに、どれだけ強い指令が届くかで決まります。歯は、出された力を受け止める側にあります。
マウスピースは、その受け止め方を変える装置です。力の伝わり方や当たり方は変わりますが、指令の強さそのものには手が届きません。だから、歯は守られるのに、筋肉は同じだけ働き続けるという状態が起こりえます。
朝のだるさは、歯がすり減った結果ではなく、咀嚼筋が長時間働き続けた結果として出てきます。守る装置をつけていても、働く量が変わっていなければ、だるさは残ります。
研究ではどこまで分かっているのか
この点は、研究でもかなりはっきりしています。
歯ぎしりに対するマウスピースの研究をまとめた系統的レビューでは、上あごにつける硬い装置と口蓋につける装置のどちらでも、装着した直後は歯ぎしりに伴う筋活動が下がったものの、その効果は一時的で、2週・4週・6週を超えて続かなかったと報告されています(Ainoosah ら, BMC Oral Health, 2024)。
さかのぼると、医療の根拠を評価する国際的な組織コクランも、2007年の時点で、マウスピースが睡眠中の歯ぎしりそのものを減らすと言える根拠は十分ではないとまとめています。そのうえで、歯の摩耗を防ぐ面では役立つ可能性があるとしています(Macedo ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2007)。
装置が効いていないのではなく、装置は別の仕事をしている。研究の結果は、この整理とそのまま一致しています。
ゆるめるケアでも同じこと
なぜ翌朝には戻っているのか
同じ構造は、顎まわりの筋肉をゆるめるケアにも当てはまります。
こめかみや頬をやさしくほぐす、温める。こうしたケアを受けた直後は、たしかに軽くなります。血流が戻り、筋肉の張りは下がります。ところが、翌朝にはまた同じ重さが戻っている。
ゆるめたのは、結果として張っていた筋肉です。噛む力をどのくらいに設定しておくかという基準は、そのまま残っています。基準が変わっていなければ、脳は同じ張りをもう一度つくり直します。眠っているあいだに起きる噛みしめについては第2回で詳しく書いていますが、そこで見た自律神経の立ち上がりも、ゆるめるケアでは変わらない部分です。
ゆるめるケアに意味はないのか
これは、そうしたケアに意味がないという話ではありません。張りが強すぎて痛む筋肉を楽にすることには、それ自体の価値があります。
ただ、押したりゆるめたりする方向のケアは、届く範囲がはっきり決まっています。届く範囲と、届かない範囲を分けて考えたほうが、遠回りが減るという話です。首や肩の張りが戻る理由は第3回で扱いました。顎でも同じことが起きています。
戻ることは失敗ではない
戻り方から何が分かるのか
施術やセルフケアのあとに戻ってしまうと、多くの方はうまくいかなかったと受け取ります。けれども、戻り方そのものが重要な情報を含んでいます。
その場で変わり、しばらくして戻るのであれば、筋肉は変わる余地を持っているということです。変わらないのではなく、変わった状態を保っておく基準が別のところにある。ここまで分かれば、次にどこを見ればよいかがはっきりします。
どんなときに歯科へ行くべきか
一方、何をしてもその場でも変わらない、口の開き方が一定以上広がらない、開け閉めのたびに強い痛みがある、カクッという音のあとに口が開かなくなった。こうした場合は、筋肉ではなく関節そのものの状態を確かめる必要があります。まず歯科・口腔外科にご相談ください。
設定を動かすのは感覚入力
歯はどれくらい細かく感じ取っているのか
では、噛む力の基準そのものはどこから動くのか。
噛む力の設定は、感覚の入力をもとに調整されています。歯を支える組織から、咀嚼筋の中のセンサーから、首の筋肉から、内耳から。これらの情報が統合されて、いまどのくらいの力を保っておくべきかが決まります。
この入力の細かさは、想像以上です。上下の前歯で薄い箔を軽く噛んで、あるかないかを答えてもらう実験では、8〜46マイクロメートルの厚みを感じ分けられたと報告されています(Jacobs ら, Journal of Periodontal Research, 1992)。髪の毛1本よりも薄い厚みです。詰め物を入れた直後に、わずかな高さの違いがはっきり分かるのはこのためです。
この感覚の中心にあるのが、歯の根を包む歯根膜にある感覚の受け手です。同じ研究グループは、歯根膜の受け手が歯の触覚と噛む力の調整に中心的な役割を持つことを、総説にまとめています(Jacobs と van Steenberghe, Journal of Periodontal Research, 1994)。
強く押さないほうがいい理由
これほど細かい情報を扱っている系に対して、強い力で押し込む必要はありません。むしろ、強い刺激は体を守る反応を引き出し、筋肉をさらに固める方向に働くことがあります。
つまり、入ってくる情報が変われば、出ていく力も変わりうるということです。強く押して筋肉を変形させるのではなく、センサーに届く情報のほうを整える。これが、当院がやわらかいタッチにこだわる理由です。
当院がみているところ
整体院ファシリテイトでは、顎そのものを強く押すことはしません。口の開け閉めの軌道、左右の噛む筋肉の張りの差、頭がどこにのっているか、首から上の力の入り方を確かめながら、神経の伝わり方がどこで乱れているかを評価していきます。考え方については神経整体とはのページにまとめています。
マウスピースをお使いの方には、外していただく必要はありません。歯を守る仕事は装置に任せたまま、働く量のほうを見ていく。そういう併せ方ができます。あごの症状全般については顎関節症・あごの痛みのページをご覧ください。
施術を行う北村隆行は、臨床歴22年(うち理学療法士として医療機関で18年)の経験を持ちます。リハビリテーション科科長や勉強会講師を務め、精神科・スポーツリハビリ・デイサービス・訪問リハビリなど幅広い現場で臨床を重ねてきました。現在は神経整体T-Group認定講師として全国6会場で施術者への技術指導にあたり、2024年12月には第7回大阪呼吸ケア・リハビリテーション研究会に実習アシスタントとして登壇しています。なぜそうなっているのかを神経のはたらきからご説明できることを、いちばん大切にしています。
次回は連載の最終回として、自分の顎の状態を知るためのセルフチェックをご紹介します。マウスピースをしていても朝がつらい方は、お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q. マウスピースはずっと使い続けたほうがいいですか
A. 使い続けるかどうかは、つくった歯科の判断に従ってください。マウスピースは歯を守る大切な役割を持っているので、当院から外すようお願いすることはありません。
Q. マウスピースと整体は併用できますか
A. はい、併用できます。歯を守る仕事は装置に、噛む力の強さを左右する筋肉と神経のほうは当院で見ていく、という分担です。どちらかを選ぶ必要はありません。
Q. 硬いマウスピースと柔らかいマウスピースはどちらがいいですか
A. 装置の種類や素材を選ぶのは歯科の領域なので、当院ではお答えしていません。つくった歯科にご相談ください。
Q. マウスピースをしていても歯が欠けました。どうすればいいですか
A. まず歯科を受診してください。歯の欠けや詰め物の脱落は歯科での手当てが必要です。噛む力が強い状態が続いていることのサインでもあるので、歯科での処置が済んだあとで、噛む力の背景について併せてご相談いただけます。
Q. どのくらいで変化を感じられますか
A. 経過の長さや生活の場面によって変わるため、一律にはお答えできません。初回にお身体を確かめたうえでご説明しています。変化をお約束するものではありません。
参考にした研究
Ainoosah S, Farghal AE, Alzemei MS, et al. Comparative analysis of different types of occlusal splints for the management of sleep bruxism: a systematic review. BMC Oral Health. 2024;24:29.
Macedo CR, Silva AB, Machado MA, Saconato H, Prado GF. Occlusal splints for treating sleep bruxism (tooth grinding). Cochrane Database of Systematic Reviews. 2007;(4):CD005514.
Jacobs R, Schotte A, van Steenberghe D. Influence of temperature and foil hardness on interocclusal tactile threshold. Journal of Periodontal Research. 1992;27(6):581-587.
Jacobs R, van Steenberghe D. Role of periodontal ligament receptors in the tactile function of teeth: a review. Journal of Periodontal Research. 1994;29(3):153-167.
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