顎のことでご相談に来られた方に、こめかみの頭痛や、首から肩にかけての張りが重なっていることは珍しくありません。逆に、肩こりで来られた方の噛む筋肉が固くなっていることもあります。
顎と首と肩。離れた場所のように見えて、神経の上ではかなり近いところにあります。尼崎市武庫之荘の整体院ファシリテイトによる、食いしばり連載の3回目です。今回は、なぜそうなるのかを研究の裏づけとあわせて見ていきます。
この記事の要点
・顎からの信号と首からの信号は、脳幹の同じ場所で合流する。だから顎の不調が後頭部や首の痛みとして感じられる
・頭の位置は、目・内耳・首の3つの情報から決まっている。首の筋肉はセンサーの塊で、ここが乱れると全身の張りが配り直される
・肩を揉んでも翌日に戻るのは、張りを配っている側が変わっていないから
顎の信号が後頭部や肩に出る
なぜ顎の問題が後頭部の痛みになるのか
顎や噛む筋肉から届いた信号は、脳幹にある三叉神経の中継地点で受け取られます。この中継地点は上から下へ細長く伸びていて、いちばん下の部分は、首の上のほうから入ってくる神経の到着地点と重なっています。
顎からの信号と、首からの信号が、同じ神経細胞に集まる。これを三叉神経頸髄複合体と呼びます。同じ細胞に2方向から情報が届くため、脳の側ではどちらから来た信号なのかを正確に切り分けられません。顎で起きていることが後頭部や首の痛みとして感じられたり、逆に首の緊張が顎の重さとして出たりするのは、この構造から説明できます。
どこまで確かめられているのか
この合流は推測ではなく、動物実験で直接確かめられています。Goadsby らは、後頭部の感覚を担う大後頭神経を刺激すると、三叉神経の中継地点と頸髄の後角で代謝活動が高まることを示しました(Pain, 1997)。首を刺激したのに、顎や顔を担当する場所が反応したということです。
その後、Bartsch と Goadsby がこの複合体と頭痛の関係を整理し(Current Pain and Headache Reports, 2003)、いまでは片頭痛や緊張型頭痛を考えるうえでの基礎になっています。顎と首が別々の話ではないことは、臨床の実感ではなく解剖と生理の事実です。
頭の位置を決める3つの情報
目・内耳・首のどれが欠けても起こること
頭が体のどこにのっているかを、脳は3種類の情報から判断しています。
1つ目は目から入る視覚の情報。2つ目は内耳にある、傾きと加速度を感じ取る前庭の情報。そして3つ目が、首の筋肉から届く情報です。この3つが食い違わないように統合されて、初めて頭の位置が安定します。
逆にいえば、どれかひとつがずれた情報を送ると、残りの2つと食い違いが生まれます。脳はその矛盾を解消しようとして、姿勢を保つ筋肉の使い方を組み替えます。
顎関節症でめまいが重なるのはなぜか
首からの情報が乱れたまま固定されると、目や内耳の情報とのズレが続きます。顎関節症の方にふらつきやめまいが重なることがあるのは、この食い違いと無関係ではないと考えられています。
ただし、めまいには耳や脳の病気が背景にあることもあります。回転するような強いめまい、聞こえの低下、ろれつが回りにくいといった様子を伴う場合は、まず医療機関にご相談ください。
小さいのに情報量が多い筋肉
後頭下筋群はどれくらいセンサーが多いのか
首の情報を届けている中心が、後頭下筋群です。頭蓋骨の下と、いちばん上の背骨のあいだをつないでいる、指先ほどの小さな筋肉の集まりです。
この筋肉の特徴は、大きさではなくセンサーの密度にあります。筋肉の長さを感じ取る筋紡錘というセンサーの数を数えた研究では、下頭斜筋で1グラムあたり242個、上頭斜筋で190個という値が報告されています(Kulkarni ら, Neurology India, 2001)。同じ研究では腱の張力を測るセンサーは見つかっておらず、長さの変化を測ることに特化した筋肉であることがうかがえます。
力を出すための筋肉というより、頭の傾きを測るための計測器に近い。そう考えると、ここが持続的に緊張したときに何が起きるかが見えてきます。測定値そのものがずれるのです。偏った情報を受け取った脳は、それに合わせて全身の筋肉の張りを配り直します。顎の緊張が肩や背中の張りに波及していく道すじのひとつがここです。
この筋肉は硬膜ともつながっている
もうひとつ、後頭下筋群には見過ごせない特徴があります。
Hack らは11体の解剖で、頭蓋骨の下にある小後頭直筋と、脳と脊髄を包む硬膜とのあいだに、全例で結合組織の橋がかかっていることを報告しました(Spine, 1995)。筋膜と硬膜をつなぐこの構造は筋硬膜橋と呼ばれ、いまではMRIでも確認されています。
つまりこの小さな筋肉は、頭の傾きを測りながら、同時に硬膜を引っぱる位置にあります。首の後ろの深いところが固まることが、単なる肩こり以上の広がりを持ちうる理由です。
顎は、ひとりで動いていません
舌骨はどこにもぶら下がっていない
物理的なつながりも見ておきます。
下顎の下には舌骨という、どの骨とも関節をつくらない小さな骨があります。この骨は、上からは下顎と側頭骨につながる筋肉に、下からは胸骨と肩甲骨につながる筋肉に、両側から引っ張られて宙づりの状態で保たれています。関節で固定されていないぶん、上下どちらかの引っぱりが強くなれば、位置はそのまま移動します。
つまり、噛む力が上がれば、その張力は舌骨を介して鎖骨や肩甲骨のあたりまで届きます。顎に力が入り続けている方の首の前側が固くなり、肩がすくんだ位置に落ち着いていくのは、この連結から説明できます。
こめかみが痛くなるのはどの筋肉か
こめかみに扇形に広がっているのが側頭筋です。咬筋と並んで顎を閉じる主力で、噛みしめが続くと持続的に張ります。
この筋肉は、場所として頭の側面を覆っています。こめかみを締めつけられるような頭の痛みが顎の状態と重なって語られることが多いのは、痛みの出どころが頭の中ではなく、頭を覆っている筋肉の側にある場合があるためです。詳しくは頭痛のページでも扱っています。
耳のつまり感が重なる理由
中耳の筋肉も三叉神経が動かしている
顎の不調に、耳が詰まったような感じや耳鳴りが重なる方がいます。これにも解剖学的な理由があります。
中耳には、大きすぎる音から鼓膜を守るための鼓膜張筋という小さな筋肉があります。また、のどと中耳をつなぐ管を開いて気圧を調整する口蓋帆張筋もあります。このどちらも、咀嚼筋と同じ三叉神経の枝に支配されています。噛む筋肉に強い指令が届いている状態は、耳の中の小さな筋肉にとっても無関係ではありません。
どのくらいの人に重なるのか
顎関節症の方の耳の症状をまとめた研究では、耳のつまり感、耳痛、耳鳴り、めまい、聞こえにくさのいずれかを訴える方が高い割合で見られたと報告されています(Porto De Toledo ら, Clinical Oral Investigations, 2017)。ただしこの研究は、報告ごとのばらつきが非常に大きいことも同時に示しています。数字をそのまま受け取るのではなく、顎と耳は重なることがあるという事実のほうを押さえてください。
聞こえが急に落ちた、強い耳鳴りが続いているという場合は、まず耳鼻咽喉科にご相談ください。
肩を揉んでも戻る理由
何が変わって、何が変わっていないのか
肩の張りをゆるめてもらうと、その場では軽くなる。けれども翌日にはまた元通りになっている。この繰り返しに心当たりのある方は多いと思います。
ゆるめたのは、結果として張っていた筋肉です。一方で、後頭下筋群が送っている頭の位置の情報や、噛む力そのものの設定は、そのまま残っています。脳は同じ情報をもとに、同じ張りの配分をもう一度つくり直します。
戻るのは施術が届かなかったからではなく、配分を決めている側が変わっていないからだと考えられます。だから、首や肩だけを見ても届かないことがあります。同じように、顎だけを見ても届かないことがあります。
当院がみているところ
整体院ファシリテイトでは、痛みのある場所だけを追いかけません。口の開け閉めの軌道、左右の噛む筋肉の張りの差、頭がどこにのっているか、首の前側と後ろ側のバランス、肩甲骨の位置。これらを順に確かめながら、神経の伝わり方がどこで乱れているかを評価していきます。
やわらかいタッチで、顎と首と肩を分けずに整えていく。それが当院の神経整体のアプローチです。あごの症状そのものについては顎関節症・あごの痛みのページにまとめています。
施術を行う北村隆行は、理学療法士として18年の臨床経験を持ちます。リハビリテーション科科長や勉強会講師を務め、精神科・スポーツリハビリ・デイサービス・訪問リハビリなど幅広い現場で臨床を重ねてきました。現在は神経整体T-Group認定講師として全国6会場で施術者への技術指導にあたり、2024年12月には第7回大阪呼吸ケア・リハビリテーション研究会に実習アシスタントとして登壇しています。なぜそうなっているのかを神経のはたらきからご説明できることを、いちばん大切にしています。
なお、急に強くなった頭痛、手のしびれ、ろれつが回りにくいといった様子を伴う場合は、まず医療機関にご相談ください。当院の施術は医療の代わりではなく、緊張やクセのケアとして併せてご利用いただくものです。
次回は、マウスピースをしていても朝のだるさが残るのはなぜかを見ていきます。顎と頭と肩が同時につらい方は、お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q. 顎が原因の頭痛かどうか、自分で見分けられますか
A. 完全に見分けることはできませんが、手がかりはあります。こめかみを指で押すと痛みが再現される、朝がいちばん重い、硬いものを食べた翌日に強くなる、といった場合は噛む筋肉が関わっている可能性があります。ただし急に強くなった頭痛は別の原因を確かめる必要があるので、まず医療機関にご相談ください。
Q. 肩こりで来ても、顎を診てもらえますか
A. はい。肩こりでお越しの方でも、噛む筋肉の左右差や口の開け閉めの軌道は確かめています。顎に自覚症状がなくても、噛む力の偏りが首や肩の張りに出ていることがあるためです。
Q. 歯科で顎関節症と言われましたが、整体に行っていいのでしょうか
A. 歯科・口腔外科を受診したうえで、併せてご利用いただけます。歯を守る手当てや関節そのものの評価は歯科の担当で、当院は咀嚼筋の過緊張や頭頸部の姿勢、神経の過敏さに着目したケアを行います。役割が違うので、どちらかを選ぶ必要はありません。
Q. 耳鳴りも整体で楽になりますか
A. 耳の症状は耳の病気が背景にあることがあるため、まず耳鼻咽喉科にご相談ください。そのうえで耳に異常が見つからず、顎や首の緊張と一緒に出ている場合は、噛む筋肉と頭頸部のケアを併せてご相談いただけます。効果をお約束するものではありません。
Q. 何回くらい通う必要がありますか
A. 症状の経過の長さや生活の場面によって変わるため、初回にお身体を確かめてからご説明しています。当院は基本的に毎週の来院をおすすめしており、4回目がちょうど1か月後になります。そこが通い方を見直す区切りになります。
参考にした研究
Goadsby PJ, Hoskin KL, Knight YE. Stimulation of the greater occipital nerve increases metabolic activity in the trigeminal nucleus caudalis and cervical dorsal horn of the cat. Pain. 1997;73(1):23-28.
Bartsch T, Goadsby PJ. The trigeminocervical complex and migraine: current concepts and synthesis. Current Pain and Headache Reports. 2003;7(5):371-376.
Kulkarni V, Chandy MJ, Babu KS. Quantitative study of muscle spindles in suboccipital muscles of human foetuses. Neurology India. 2001;49(4):355-359.
Hack GD, Koritzer RT, Robinson WL, Hallgren RC, Greenman PE. Anatomic relation between the rectus capitis posterior minor muscle and the dura mater. Spine. 1995;20(23):2484-2486.
Porto De Toledo I, et al. Prevalence of otologic signs and symptoms in adult patients with temporomandibular disorders: a systematic review and meta-analysis. Clinical Oral Investigations. 2017;21(2):597-605.
📍 阪急武庫之荘駅 徒歩2分 整体院ファシリテイト 完全予約制
#食いしばり #顎関節症 #緊張型頭痛 #肩こり #首こり #咬筋 #側頭筋 #後頭下筋群 #三叉神経頸髄複合体 #神経整体 #武庫之荘整体 #尼崎整体 #整体院ファシリテイト
▼関連するページ



