側頭筋と咬筋、三叉神経の枝を示した頭部の3D解剖ビジュアル

朝起きたときに奥歯がだるい、頬の外側が張っている、集中していて我に返ると歯を噛みしめていた。食いしばりは、本人に自覚がないまま何年も続いていることがほとんどです。歯科で指摘されて初めて知ったという方も、尼崎市武庫之荘の当院にご相談に来られる方の中に少なくありません。

意識していないのに、なぜ顎に力が入り続けるのか。この連載では5回にわたって、食いしばりを脳と神経のはたらきから読み解いていきます。初回は、噛む力がどこで決まっているのかという話から始めます。

噛む力を決めているのは歯ではない

顎を動かす筋肉は、咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋の4つをまとめて咀嚼筋と呼びます。このうち咬筋は、断面積あたりの発揮できる力が体の中でも際立って大きい筋肉です。

その力の大きさを決めているのは、歯でも顎関節でもありません。脳幹にある三叉神経運動核という神経細胞の集まりに、どれだけ強い指令が届くかで決まります。歯はあくまで、出力された力を受け止める側にあります。ここを取り違えると、顎の不調を歯の問題としてだけ扱うことになり、噛む力そのものは変わらないまま残ります。

本来、口を閉じて力を抜いているとき、上下の歯は触れていません。1ミリから3ミリほどのすき間が空いているのが自然な状態で、これを安静空隙と呼びます。1日のうち上下の歯が接触している時間は、食事を含めても合計20分程度といわれます。

ところが、このすき間を保つしくみが崩れると、弱い接触がだらだらと続きます。噛みしめている自覚がないまま咬筋が働き続ける状態で、歯列接触癖と呼ばれます。強く噛む瞬間があるかどうかではなく、離れているべき時間に離れていないことが問題になります。

噛む筋肉を動かす三叉神経

顔面には2つの大きな神経が走っています。表情をつくる筋肉を動かすのが顔面神経、噛む筋肉を動かすのが三叉神経です。笑う、しかめるといった表情の動きと、噛む力は、別々の神経が担当しています。

三叉神経は脳神経の中で最も大きく、顔の感覚を受け取る感覚枝と、咀嚼筋を動かす運動枝を併せ持ちます。咀嚼筋を支配しているのは、三叉神経の3本目の枝である下顎神経です。

この神経には、ほかの感覚神経と大きく違う点があります。歯を支える歯根膜と、咀嚼筋の中にある筋紡錘から届く情報は、三叉神経中脳路核という場所で受け取られます。中枢神経系の中でここだけ、感覚を最初に受け取る神経細胞の本体が脳の中に置かれている構造です。

つまり噛む力の微調整は、脊髄を経由せず、脳幹の中で完結する短いループで行われています。硬いものを噛んだ瞬間に力を緩められるのは、この高速な回路があるからです。裏を返せば、このループが過敏な状態に傾くと、ごくわずかな歯の接触にも筋肉が反応し続けることになります。

感情の回路は咬筋につながる

緊張すると顎に力が入る。この体験には、はっきりとした神経の道すじがあります。

危険や不安を検知する扁桃体は、視床下部や中脳水道周囲灰白質を介して、体を守る姿勢をつくる方向に働きます。身を固める、息を詰める、そして顎を固める。動物が身構えるときに口元を締めるのと同じ、進化的に古い防御の反応です。

さらに、交感神経が優位に傾くと、筋肉の長さを感知する筋紡錘の感度を調整している神経の活動が上がります。筋肉は短く、硬い側に保たれやすくなります。ストレスは気の持ちようではなく、筋肉の出力の設定そのものを書き換えているということです。

だから、仕事や家庭の緊張が続いている時期に、あごや頬の張りが強くなるのは不思議なことではありません。

気づけないのには理由がある

食いしばりが自覚されにくい最大の理由は、その強さにあります。

顎の不調につながる持続的な咬筋の活動は、最大の力の5パーセントから10パーセント程度でも成立します。この程度の力は、長時間続けば筋肉の疲れと血流の低下を招きますが、力を入れているという感覚を生みません。先に意識に上がるのは、こめかみの張り、頬のだるさ、朝の顎の重さといった結果のほうです。

加えて、同じ入力が続くと、脳はそれを背景として処理し、意識に上げなくなります。感覚のゲーティングと呼ばれるはたらきです。鏡を見て初めて頬が張っていることに気づく、という現象はここから説明できます。

抜いた力が戻ってしまう理由

歯を離す意識を持つことは、今日からできる大切な習慣です。ただし、それだけで噛みしめが止まらないことにも理由があります。

意識で抑えられるのは、自分で出す随意的な指令の部分です。一方、筋肉がどのくらいの張りを保っておくかという基礎的な設定は、脳幹のレベルで決まっています。設定が上がったままなら、注意を向けた瞬間だけ力は抜け、注意が外れれば元に戻ります。

食いしばりは意志の弱さの問題ではありません。出力の基準値がどこにあるかという問題です。ここを分けて考えると、なぜセルフケアだけでは頭打ちになりやすいのかが見えてきます。

当院がみているところ

整体院ファシリテイトでは、顎そのものを強く押すことはしません。口の開け閉めの軌道、左右の噛む筋肉の張りの差、頭が体のどこにのっているか、首から上の力の入り方を確かめながら、神経の伝わり方がどこで乱れているかを評価していきます。

やわらかいタッチで、咀嚼筋と頭頸部の過緊張がゆるむ方向をさがしていく。それが当院の神経整体のアプローチです。施術を行う北村隆行は、理学療法士として18年の臨床経験を持ち、神経整体T-Group認定講師として全国6会場で施術者への技術指導にあたっています。

なお、あごの痛みが強い、口が指2本分しか開かないといった状態が続く場合は、まず歯科・口腔外科にご相談ください。当院の施術は医療の代わりではなく、緊張やクセのケアとして併せてご利用いただくものです。

次回は、眠っている間に起こる食いしばりを、睡眠の深さと自律神経の動きから見ていきます。顎の不調でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

📍 阪急武庫之荘駅 徒歩2分 整体院ファシリテイト 完全予約制

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